Liquid Probe Ionization

リキッドプローブイオン化法

質量分析では前処理した検体を液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーで分離し、次いで分離された分子をイオン化して、それを質量分析装置で検出します。イオン化部と分析装置には複数の種類があり、用途によって組み合わせが選択されますが、イオン化を大気圧下、減圧下のどちらで行うかによってシステムが大別されます。大気圧下で使用できるイオン化法は「アンビエントイオン化法」と呼ばれ、またこのイオン化法を連結した質量分析装置を用いた成分分析を「アンビエント質量分析」といいます。アンビエント質量分析は減圧環境を要求しないため、装置の構成が複雑にならず、分析スループットも高いことから様々な分野で実用されています。

アンビエントイオン化法であるLPIは山梨大学で独自開発された技術(特願2019-517709, 平岡)で、固体、液体を問わず検体を前処理無しで直接イオン化することができます。クロマト分離も行う必要がないため、多数検体の超ハイスループット分析が可能です。

図1. LPIの原理と概要

検体を液体で採取する!?

LPIでは図1の左側にあるプローブを用いて検体の採取とイオン化を行います。プローブは金属製の細い針と、それを囲う樹脂製の外套からなり、外套には任意の溶媒を充填することができます。図1の中ほどのように、金属針の先端に液体膜が形成されます。この液体膜に検体を接触させることで成分を捕捉し、次いで針に高電圧を印加することで採取された成分を溶媒と共にエレクトロスプレーします(図2)。イオン化された分子は質量分析装置に導入され分析が行われます。

図2. プローブによるエレクトロスプレー

検体には溶媒シースのみが触れるため針には成分が付着せず、高電圧の印加により溶媒シース中の成分は完全にイオン化されるため、プローブの交換を行わなくてもクロスコンタミネーションの心配なく、多数検体の連続分析が可能です。

超ハイスループット成分分析が可能

1検体の分析所要時間は数秒です。仮に10秒/検体で分析したとすると、1台の装置で1日に8,000検体以上もの分析が可能です。既にマルチウェルプレートの自動分析が可能なオートサンプラーの試作機が完成しており(本学工学域電気電子情報工学系、二宮 啓准教授)、実用化に向けたアプリケーションの研究開発を進めています。現在の装置は1~1.5 m四方程度のサイズですが(図3)、小型化することで可搬化し、車両や航空機などに搭載することも目指しています。

図3. LPI-MS装置のサイズ
図4. LPIユニットを連結した質量分析装置(島津製作所, DPiMS-2020)
  • 液体、固体を問わず検体を前処理なく成分分析することが可能
  • 人の手を介さないので操作者の二次感染が問題となる検体などに有用
  • スループットが高く、かつ自動なので多数検体のスクリーニングに適する
  • 質量分析装置の種類(メーカー)を問わずに導入できる
図5. 左:オートサンプラーの全容、右:質量分析装置インターフェースとの位置関係
  • Anal Methods. 2020 Jun 11;12(22):2812-2819. doi: 10.1039/d0ay00778a. PMID: 32930203
  • Mass Spectrom (Tokyo). 2020;9(1):A0092. doi: 10.5702/massspectrometry.A0092. PMID: 33299735